飯野健二先生の御退職

来年で開講50周年を迎える当科において、かつてこれほどまでに退職を惜しまれる医師がいたでしょうか。そう思うほどに、講座内の医師に敬われてきたのみならず、他科医師や病院スタッフに親しまれてきた准教授の飯野健二先生がご退職されました。去る921日、その送別会を附属病院の40周年記念会館にて開催いたしました。皆が一堂に会することが許されない昨今の事情から、限られた人数でひっそりと、でも厳かに執り行われました。感謝を伝えたい人が数多くいるため、その想いを伝えるためにメッセージムービーを作製して贈呈しました。加えてコメディカル部門からは、飯野先生の入局年に製造されたワイン、医局から大きな花束も贈呈しました。とりわけ共に過ごしてきた時間が長い渡邊教授からの、これまでの感謝と送別の辞が何より飯野先生の記憶に残っているものと思います。そして最後に飯野先生よりご挨拶頂きました。参加出来なかった先生方にも伝えたい内容を抜粋して記します。

 

「楽観的思考は研究に、悲観的思考は臨床に」

渡邊教授の教えだと仰っていましたが、実験は失敗してもやり直すことが可能、だから失敗にくよくよせずに前向きに試行錯誤を繰り返す姿勢が必要な一方で、臨床医は常に最悪の事態を想定した考え方が必要であるという意味です。それは、御専門の心臓カテーテルにも根付いていて、「カテーテル治療は人体を傷つけ、異物を入れる行為でもある。その怖さを分かっている人に自分は治療してほしい」と。だから、常にうまくいかない状況をイメージして次の手を考えている、良い意味で臆病な術者こそが優れたインターベンショニストだというメッセージです。皆がまさに異口同音で「冷静」「的確」「安心感」と表現する危急現場における存在感、その背景にあるのはセンスだけではなく、日々の努力と備えでもあるということです。そうは言っても、大学病院においてはハイリスクな患者さんの診療も多いことから、最先端治療を担う挑戦的姿勢と安全重視の両方を守ることが求められる「大学病院のインターベンショニスト」を第一線で体現してきた大変さは想像に難くありません。

 

腕に覚えのある術者は、時として「カテーテルで治す」ことに拘り勝ちですが、「現状で患者さんにベストな治療戦略は何か」を最優先する飯野先生の姿勢は一貫していて、バイパス手術を勧めたり、ある時はカテーテルを施行しないという選択をすることもありました。それは消極的と捉えられることもあったのかも知れませんが、治療の利益不利益をよく知っていることと、いざカテが必要とあれば完遂する実力があるからこそであったと思います。

 

培養皿の中で単離心筋細胞の拍動を観察して感じた心臓の神秘性のお話は印象的です。心筋細胞を用いた実験をしていた経験から、臨床に絶対は無いと感じたと仰っていました。医療行為は、医学というサイエンスの上に成り立つものですが、人間という曖昧な社会的動物を相手にしている以上、不確定要素も多いものです。だからこそ、日々学び(研究)、実践し(診療)、時にそれを後輩に伝えてこられた(教育)その姿が、飯野先生が「大学病院におけるインターベンショニスト」として長きにわたり一つの時代を築き、皆を惹きつけて来た理由だろうと思います。

 

飯野先生の御退職は、端的に寂しいです。でも、時代の変遷は避けられないと知っているからこそ、教わった思想や技術、手掛けられた事業を引き継ぎ、前を向いて発展させていくことが「恩返し」だと信じています。

飯野先生、長い間お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

 

以下飯野先生よりコメントを頂きました。

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大学病院での勤務は2004年からの17年間となります。多くの皆様の助けによりこれまで無事に勤務させて頂けたことを心より感謝申し上げます。

渡邊教授には入局2年目から、大学院の研究、臨床現場での指導医として、私の医師人生のほぼ大半を公私にわたってご指導いただきました。その中で、医師としての自身の「柱」となっている言葉を教えていただきました。今後もその言葉を反芻しながら医療に向き合っていきたいと思います。これまで、多くの貴重な経験をさせて頂きましたこと、感謝申し上げます。

また、自分の専門分野であった心血管インターベンションにおいて、カテ室スタッフの皆様にも大変お世話になりました。「一番危険なカテ室を一番安心な場所に!」を合言葉に、皆で実践できたことを誇りに思います。

同門の先生方におかれましては、様々な事案のご連絡やお願いなどにも関わらず、いつも温かいご助言、ご指導、ご協力をいただき大変ありがとうございました。

 

これからもより一層精進してまいります。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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【ご略歴】

1994年  5月 秋田大学医学部第二内科

199412月 山本組合総合病院循環器科

199512月 秋田大学医学部第二内科

2001年  6月 虎ノ門病院循環器センター内科

2002年  4月 秋田赤十字病院循環器科副部長

200411月 秋田大学医学部第二内科助手

2007年  4月 秋田大学医学部循環器内科学分野助教(教員の職名変更)

2012年  6月 秋田大学医学部循環器内科学分野講師

2019年  3月 秋田大学医学部循環器内科学分野准教授

 

【受賞歴】

2008年秋田大学先進医療プロジェクトコンペ最優秀賞

2012年秋田大学先進医療プロジェクトコンペ優秀賞

2013年秋田大学先進医療プロジェクトコンペ最優秀賞

 

 

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